相続税対策に生前贈与を活用するときは贈与の証拠を残す
相続税対策に生前贈与を活用するには、まず贈与が成立していることが条件となります。
「贈与が成立している」ことは、相続税の税務調査においても重要な論点になりますので注意が必要です。
相続税対策に生前贈与を活用するには、そもそも贈与とは何か?という理解が必要不可欠となります。
贈与が何か?ということについては、相続税法に定められているのではなく、民法に定められています。
民法では「贈与」というのは次の条件を満たす契約であると定められています。
・財産をあげる人について、財産を「あげます」という意思表示
・財産をもらう人について、財産を「もらいます」という意思表示
例えば、親が子供名義で預金をしている場合。
子供が預金をしてもらっていることを知らないときは、贈与が成立していないことになります。
親は子供に対して「預金をあげる」という意思表示を持っていますが、子供は親が預金をしてくれていることを知らないため「預金をもらいます」という意思表示がありません。
このように、民法上の贈与が成立していないため、税務上も贈与が成立したとは判断しません。
贈与が成立しなければ、子供名義の預金は当然に親の財産となります。
もし、親に相続があったときには当然のことながら相続財産に含まれ、相続税の対象になります。
これが、いわゆる「家族名義の預金」となってしまう原因の一つです。
民法上、贈与が成立しているかどうかを証明するために、次のような証拠を残しておくと良いでしょう。
・贈与契約書を作成する
・金銭を贈与するときは振り込みをして、通帳に履歴が残るようにする
・通帳の印鑑は子供用に準備をし、通帳・印鑑ともに子供に管理させる
相続税対策に生前贈与を活用することは、毎年コツコツと継続的に行っていくことで効果が出てきます。
ところが、生前贈与について正しい知識と理解がなければ、生前贈与をしたつもりが生前贈与ではないと税務署から指摘される可能性があります。
世間一般には財産の名義さえ子供になっていれば生前贈与したことになる、という誤解が広がってしまっています。預金や現金は簡単に名義を変えることができますので、生前贈与を行うときは慎重な対応が求められます。
贈与が成立している証拠として、贈与税の申告を行い贈与税の支払いをすることで効果があるといわれることがあります。
例えば、贈与税の基礎控除である110万円を超える120万円を贈与して、贈与税1万円を払い税務署に贈与税の申告をしたことを形として残すというものです。
この理由は、贈与税の非課税である110万円を毎年贈与していれば、税金逃れとして指摘を受けるというものです。
これは世間一般にいわれており、また税理士の中にもこのようなことを真顔でおっしゃる方もおられますが、まったく根拠がありませんので注意が必要です。
贈与税の申告や納税を行っていても、名義預金であると判断されることはあります。
贈与税は、自分で贈与税を計算し申告書を提出して、贈与税を支払う形式の税金です。
贈与税の申告書を提出し贈与税を支払うことは、あくまでも納税者の自己判断であるため、贈与税の申告書の提出があったことが贈与の事実を証明することにはなりえません。
また、贈与が成立しているかどうかは客観的に判断されるため、贈与税を払っているかどうかということも贈与が成立しているかどうかの判断基準にはなりません。
贈与税の申告書が提出されていても名義預金であると税務署が判断したときは、贈与税の申告について次のように考えています。
「贈与が成立していないのにあなたが間違って贈与税の申告書を提出し、間違って贈与税を払っているにすぎない。」
つまり、贈与税の申告書が提出され贈与税を払っていることが贈与の事実を証明することにはなりません。